最強男子はあの子に甘い

 はっとして隣を見れば姫にナイフを向けているにやつき男が、何が起こったものかと完全に狼狽え逃げ腰だ。
 にやつき男の持つナイフも彗くんは軽く蹴り飛ばす。
 すると怯えていたはずの姫は素早い動きで彼の胸ぐらを掴み、その体を投げ飛ばし地面に叩きつけた。

「もぉー!こんな男、触りたくもないのにぃー!」
 
 大きな声で文句を言って、これでもかと男に触れた手を払いつづけている。
 さほど汚れていない制服も、触れられたことで汚されたと言いたげに念入りに払っていた。
 
 私には何が起こっているのかさっぱりわからない。
 ポカンとしている私と同じく、私たちを囲んでいる――いや数的には戦闘可能人数は同等となったヤンキー残り四人もポカンと間抜け顔だ。
 しかし逃げ腰ながらもまだ諦めてはいないのか、四人はまとまるとにやりと笑った。
 ずっと彗くんを挑発しながらも、直接戦う気なんてない彼らにどんな勝算があるのかわからない。
 なのに勝利を確信するような笑みだ。