最強男子はあの子に甘い

 重たい屋上の扉をそうっと開ける。
 ポカポカ陽気の下で、眠っているかもしれない彗くんをまた起こしてしまわぬようにと。

「乙部、ずいぶんおそ……」

 屋上の入り口近くに背中を預けて立ち、腕組みしていた彗くんは言いかけた文句をすぐに飲み込んだ。
 乙部さんが現れるはずのところに私が現れたからだろう。
 気づくと彗くんは少しだけ目を大きくした。
 私は軽く会釈をしながら屋上の扉を丁寧に閉めて彼のそばに立つ。

「乙部さんから、現状報告を預かって来ました」
「……何を考えてるんだか」
 
 聞いたことのあるセリフを口にしながら、彗くんはふうっと息を吐いたあとやわらかく微笑んだ。
 同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。