最強男子はあの子に甘い

 乙部さんと二人きりで肩を並べて歩くのは不思議な気分でしかない。
 入学式に出会ったものの学校生活が始まると、学年も違って接点がないに等しかったからだ。
 湯川くん情報によれば、とても頭が良くて日頃は優等生代表みたいな生徒だと聞いている。
 永田くん情報では、とにかく笑顔が怖いらしい。
 私の中では常に微笑んでいるイメージがある乙部さんだが、永田くんはそんな乙部さんが常に怖いと言うことだろうか。
 確かに、戦わずして勝者になってしまうような頭脳派には見えるし、微笑みには裏がありそうだと勘ぐってしまうほど、隣を歩く乙部さんは今もにこやかだ。

「学校生活はどうですか?困っていることとか、悩んでることはないですか?」
「あ、はい!思っていたより居心地がいいくらいで……」

 そうですか、と頷く乙部さんが神々しく見える。
 担任の先生よりも先生かと思うほどの気遣いだったからだ。
 
「傷ついたこともないですか?」

 乙部さんが優しく私にもうひとつの質問をする。
 私はつい、屋上での失恋を思い出してしまったけど、それは誰が悪いわけでもない。
 
「……な、ないです」

 歯切れのいい返事は出来なかった。
 でも、傷ついたのは私が期待なんてしたからだ。嘘ではない。
 
「本当に?」