最強男子はあの子に甘い

 彗くんが紹介してくれた姫は彗くんが言いかけた言葉をばっさりと斬り、私と目が合うとあからさまにそっぽを向く。
 一瞬で嫌われたようだ。
 何か気に障ることでもしただろうか。
 ……彗くんと一緒にいたからだろうか。
 とりあえず美女に全力で嫌われたことには間違いない。

「ヤキモチかよ」
「だって……」
「愛情疑ってるようなもんじゃん」
「疑ってないけど……!仲良くしてるのは嫌なの!」

(あ……)

 親密そうな会話から、場違いだとか邪魔者なのだと察した私は、あわてて立ち上がる。

「お、お邪魔しました!」

 ぺこりとお辞儀をして、屋上から去ろうとすると彗くんが引き止めるように私の手を掴んだ。
 大きな手にぎゅっと掴まれて、彼の優しいぬくもりが伝わってくるとなぜか胸が苦しくなる。

「あ……悪い。つい」

 彗くんは自分でも自分の行動に少し驚くような顔を見せたあと、そっと私の手を離した。
 私は姫に軽く頭を下げて、屋上から足早に立ち去る。
 階段を駆け下り、赤いコーンに辿り着くと私はへなへなとその場にしゃがみこんだ。

 彗くんの隣にはあんなに美しいお姫様がいる。

 彼女がいないなんて思っていたわけじゃないけど、涙が出て来そうだ。
 さっきまですごく幸せだったのに、今は崖から突き落とされた気分に近い。
 
(私、彗くんのこと好きなんだ……)

 自分の気持ちに気づいても、叶わぬ恋だと悟るには十分すぎた。