最強男子はあの子に甘い

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響くと、屋上のドアがギィっと音を立てて開く。
 彗くんは私の肩に頭を乗せたまま、ため息を小さく零した。

「彗くん!先生が呼んで……る」

 かわいらしい声で彗くんを呼び、屋上に元気よく現れたのは桜辰で初めて見かける女子生徒だった。
 噂に聞いたことのある三年生の『姫』だろう。
 その容姿の美しさに私は感歎の息をこぼした。
 胸のあたりまで伸びたツヤツヤの黒髪に、色白でキメの整った肌。ぱっちりとした目。血色のいい唇。
 どのパーツを見ても美しく、すべてバランスが整った美しい『姫』は噂通り桜辰に存在していたのだ。
 
 しかし彼女は、私と彗くんを見て「え……」とこぼす。
 戸惑いにも聞こえた。

「……先生がなんだって?」

 顔を上げた彗くんが、面倒くさそうな声で姫に聞き直した。

「知らない……どうせまた手に負えないことでも起こったんじゃないの?」
「乙部に言えばいいのにな」
「いちゃいちゃしてるところを邪魔されて彗くんはご立腹ですか!」

 姫は先ほどからとても不機嫌そうだ。
 けれど不機嫌をぶつけられるほど、彗くんとはとても親しい仲にも見える。
 私はただ黙って二人のやりとりとその顔を交互に見ては、居心地の悪さを感じはじめていた。

「俺と同じクラスの小坂蜜姫(こさかみつき)。……蜜姫、先輩らしく挨拶くらい自分からしろよ。紗宇と仲良く……」
「し・な・い!」