最強男子はあの子に甘い

 自由すぎた入学式は乱闘騒ぎもあり、この先どうなるかと思った学校生活が本格的に始まった。
 これが意外にも意外すぎるほど、平穏だから驚く。

 荒れると思っていた授業は、思っていたよりずっとまともに授業として成り立っているのだ。
 真面目に机に向かう生徒こそ少ないが、先生は淡々と授業を進めていく。
 それを邪魔する者は不思議と現れなかった。
 居眠りしている生徒もいれば、雑誌を読んでいる生徒もいるし、サボりだって見かける。
 自由な振る舞いはあちらこちらに見受けられるのだが、授業に関しては迷惑行為が一切発生しない。
 むしろ授業中の校内が体育以外は静かすぎて怖いくらいだ。
 
 休み時間や放課後にはよくささいなことからケンカは勃発する。
 けれどそれも拳を交えた者同士、力関係がわかりはじめると落ち着きつつあった。
 桜辰の生徒はケンカで負けると相手を認めるということが出来るらしい。
 人間関係がわかりやすくて清々しいとまで思いはじめてしまうくらいには、私も桜辰の校風に染まりつつある。

「学校生活が快適すぎる……」
「どこがだよ!ケンカ吹っ掛けられるたびに、弱い者いじめでもしてる気分だけど?」

 昼休みの教室でお弁当を机の上に置きながら私がしみじみ呟くと、永田くんはもはやケンカするのも面倒くさいと言いたげに不満を言った。