私立、大道(おおどう)高校。

大道高校は日本各地から集まった、手がつけられない不良たちの巣窟として知られている。

校舎は生徒同士の喧嘩でつけられたキズが多く残り、壁や床にはそこかしこに落書きがされていた。

教師も手を出せない治安の悪さから、今年度の男女の比率は当然ながら9対1。
これは例年を下回る数値であると校長は嘆き、それに応じるように髪の毛が数本は抜け落ちたという。

けれど、そんな魔窟じみた学校にも新しい風は吹く。

今年の新入生の中に、化け物がいたのだ。

その化け物は、入学して僅か一週間で一年生たちの頭となり、勢いそのままに二年、三年、教師を僅か一ヶ月で従えた。

皆が化け物を恐れ、称え、ひれ伏した。



そして時が経ち___一年後。

大道高校の屋上、お昼休みにて。





「伊吹くん、今日のお弁当おいしかった?」
「マズかったら完食してねーだろ」
「え~、嘘だぁ。卵焼きちょっと焦がしてたんだよ?」

落書きだらけの屋上でフェンスにもたれながら、和やかな雰囲気が辺りを包んでいた。

“伊吹”と呼ばれた黒髪の男は、茶髪の女の膝の上に頭を置いて眠そうな目をとろんとさせている。

「…それでも、うまかったよ。由香が、つくって…くれたんだから…」

舌っ足らずに言葉を紡ぐ伊吹に、“由香”と呼ばれた女がクスクスと笑った。

長い付き合いの由香には分かっていたのだ。
伊吹が眠気に襲われているときだけ、素直になるということを。

「子供の頃から変わりませんなぁ、伊吹くんは」

由香の指先が伊吹の頬をくすぐるように撫でる。

「…なんの、ことだよ…それ…」

ふてくされたように由香を見て、その指先に自分の指先を重ねる。
そのまま甘えるように擦り寄りながら、伊吹も柔らかな笑みを浮かべた。

それはまるで、満腹になった子猫が飼い主にするような仕草。

すぅすぅと寝息を立てた伊吹を愛おしそうに見つめながら、由香もまた夢の世界へと落ちていった。






私立大道高校。


一年前に現れた、不良校の化け物番長は現在。


誰にも手を出されない環境で、大好きな幼なじみと共に幸せな学園生活を送っている。



ちなみに、その姿を見た不良たちは“自分も可愛い彼女が欲しい”と不良行為を改めるようになったという。

その効果が出たのは来年度からで、その年の女子生徒の入学率は二割増えた。
その頃には校長の育毛剤も効果が出たらしく、その頭には新しい芽が伸び始めているらしい。