あの日の青春を、私は忘れない。
夕暮れに照らされた学校は、私の中にいつまでも存在し続ける。
形が無くなったとしても。
あの母校に、感謝を。
地域の少子化が原因で母校である小学校が廃校になるのだと聞いたのは、私が母親になって数年たった頃のことだった。
県外に就職してそのままそこで結婚をし生活をしていた私がその話を聞いたのは、すでに学校が取り壊された後。母との世間話のついでに軽い話題として聞いた。
我が子はまだ幼くて、小学校入学はまだ先の話。少子化が進む現在、学校の経営もまた深刻化しているのだろう。
とりあえず候補ともいえる学校は二つあるから、そのどちらかいいかを夫と相談しながら決めなくてはならない。そう思いながら母校である小学校を思い描いた。
泣いて笑って走り回った幼い日々は、思い返せば美しい、懐かしい輝かしい日々だったが、当時はひたすら大人になりたかった。
あの頃自分は、お嫁さんになりたかった。願いはかなったのだが、思い描いたお嫁さんと現実のお嫁さんにはギャップが激しい。
これは夢はかなったと断言してもいいのだろうか。ちょっと首をかしげた時、高校時代からの親友から電話がかかってきた。
電話とは珍しい。彼女は高校卒業とともに写真を撮るという道を目指して、プロのカメラマンの弟子として世界中を回っていた。だから電話で連絡というのは最近なかったことだ。時差という、世界の理が邪魔をしていたので。
「もしもし」
『お久しぶり親友! 家族そろって元気にしてる?』
「うん、息子は元気よ」
『あれ、旦那如何した…』
「あの人はいつも元気よ。元気に息子とぐっすり寝てるわ」
『いい加減起こして親友。お昼すぎそうでしょ』
おや、計算が苦手な親友がさらっと時間を告げるということは、彼女は現在国内にいるということだろう。
「朝ごはんを作るのが面倒だったの。そろそろ起こして、一緒にブランチしようと思ってるわ」
『旦那になっても扱いが辛辣だよ親友…』
「それより今、日本にいるの?」
『実家にいるよー。そのうち遊びに行くから、予定空けといてくれると嬉しいなー』
「あら、彼氏より先に私に会いに来てくれるの? 嬉しい」
『その彼氏も連れて行きます。あいつも旦那に会いたいっしょ』
「多分そう思っていないと思うわ」
『どっちが?』
「どっちも」
『男友達ってそんなもんかね。とにかく引き連れていくからよろしく!』
「ええ、わかったわ真由美」
大好きな大好きな友人は、学校が変わり卒業した後も親友であり続けた。
夫と子供のいる今となっては、あの頃彼女に抱いていたのが愛でないことはわかる。しかし恋ではないとは言わせない。たとえ勘違いだと、友情と履き違えたのだと言われても、あの頃私は確かに、親友に対して恋していたのだから。
恋していると、思ったのだから。


