部活のないその日の帰宅路は、夕暮れに赤々と照らされて。
その人の背中を寂しげに染めた。
オレはその姿をただ、見ていた。
昼休み。
中学時代からの付き合いである友人を無理やり部室まで引っ張って、部長である彼の権限を行使させて小さな密室を作り上げてもらった。ちなみにその対価は購買の人気惣菜パン。しかも飲み物付き。高い買い物だとは思わない。こいつに話を聞いてほしくて無理を言っているのはわかっている。
誰の目も耳もない場所で相談したいことだったのだ。
対価である昼食を献上してしばらく。自分のパンを咀嚼しながら、オレは友人に昨日のことを相談した。
やる気なさげに話を聞いていた友人は、オレの開口一番のセリフにネコ目の眼を見開いた。
「…一目惚れしたぁ?」
「…」
「お前が、昨日、帰り道、知らない女の子に?」
「…」
「無言で頷くなよ返事しろよ」
「……そう」
もともと口数が少ないオレは、頷きながら小さく呟くことしかできない。
友人は総菜パンを噛みしめながら、とにかく詳しく話せとオレをせっつく。やめてくれ、大分混乱しているんだ。
昨日は、よくない日だった。時々誰にだってあるだろう、運のない一日だったのだ。
朝は目覚まし時計が鳴らず、そういう日に限って親は起こしてくれない。朝ごはんは食べる時間がなかった。コンビニで購入したおにぎりを二つ電車の中で咀嚼し、飲み物を買い忘れたためのどに詰まりかけた。
遅刻ギリギリでセーフかと思えば一限目は体育で、体操着を忘れたことに気づく。仕方なく別クラスの友人に借りたがそれに時間がかかり結局授業に遅刻した。しかも体操服は洗ってなかったのかちょっと臭かった。
朝ごはんのことしか考えていなかったため昼食を買い忘れ、購買に行くと戦争状態だった。なんでも週一しか売っていない特別メニューの日だったらしい。そんなこと知らなかったし出遅れたためもちろんそのパンは買えなかったが、大混雑していたため他のパンを買うのにも時間がかかった。結局クリームパンしか買えなかった。甘いのはそんなに得意ではないのに。
午後の授業は何事もなく過ぎて、せめて部活で発散できればと思ったのにその日はテスト期間に入るからと部活はなかった。不完全燃焼。友人らとどこかによる気分にもなれずそのまま帰宅路に着いた。
電車では何事もなかったが道を歩いているとき誤って猫の尻尾を踏んでしまった。すごい悲鳴と威嚇と攻撃にあった。動物好きとしては不覚な上に罪悪感で破裂するかと思った。
完全に心が折れた。もう家に着いたら寝るしかない。そう思いながら夕暮れに赤く染まった道をとぼとぼ歩いた。
その時だった。
「好きです、結婚を前提に御付き合いして下さい!」
めちゃくちゃ丁寧な告白が道路わきの公園から聞こえてきた。


