Summer Love


「どうして………飛び出したんだ?」



「おばあちゃんと………喧嘩しただけだよ」




「本当に?」



雲行きが怪しくなり、湿っぽい風が吹く。


「そうじゃなかったとしても、どうするの?修先生」




「俺は、ずっとお前の事大切な生徒だと今でも思ってる」



俺は純奈の肩に手を添える。



ビクッと悍ましいと言わんばかりの顔を向ける。




「辞めてっ!!!」




振り払われた手。



それでも俺は、離れない。




「俺は………お前を、助けたいんだよ。そのまま、何処かへ消えてしまいそうだから。何かに気遣って、お前は戦ってるからさ………心の内を話してくれよ!!力になりたいんだ」



そうーーー俺は、純奈の力にーーー盾になってあげたい。




弱く脆い、その優しすぎる心を俺は支えてあげたいって思ったんだ。



追いかけたあの日、一目見てシンパシーのようなものを感じたから。



俺はーーー彼女の力になりたい。



儚げで、俺よりも弱い人間を本来俺は助けたかった。




そうだーーー俺はその為に教師をやって来たんだ。



「だから………答えろ。これは、先生としての命令だ。お前を嫌がってでも助けたいんだよ。どうして、あの時逃げたんだ?他の理由はなんなんだよ?」



雨が降り始めたと思ったが、風向きが変わる。


「そ、それは………修先生が私の為を思って「特別な存在」として記憶されたくなかったからだよ!!わ、私、修先生に迷惑かけてーーー頼った縁があるから!!」


日差しが暑い。


世界の様々な物が逆光に照らされる。



「それって……俺がお前を「特別な存在」に昇華したら、俺に危害が加えられるって思っていたからか?」


「……どうして知ってるの?」




「花子さんに教えてもらったんだ」




「それならーーーほっといてくれれば良かったのに」




必死に涙をこらえる姿を見て、俺は気づいたことがある。




あぁ……ずっと俺の為に見えない所で戦ってたんだろうなって。




こんなにもボロボロになるまで、ずっと重い秘密を抱えていて、尚且つ自分自身の力で解決しようと藻掻こうとしてた。



それは………俺の事を思っての行動だったんだ。




凄くーーー純粋な子で綺麗な心の持ち主なんだなって。




俺はそっと、純奈の涙を指で拭った。




「大丈夫、大丈夫だ。俺は、何処へでもゆかないから」



「嘘。不幸になるの………みんな私を大切な存在だって認知すると」



「なら………証明してやるよ」




葉桜。



風。



光。



唇。




それが重なり合った、全ての出来事だった。




それは長く、10秒経った頃に離れた。




「………へ?」



「ほらな。俺は、生きてるだろ?特別な存在になったとしても」




純奈は目を見開いた。



その顔は、とても言葉では言い表せないくらい耽美な顔で。



「嘘………生きてるの?修先生が?」




「俺は生きてる。俺は………何があっても死なないから。信じてくれよ。純奈」



俺はポケットから、取り出したのは星の砂。



実はクローバーの売店に、シーグラスを集めた小さな手のひらサイズの瓶が売ってある。




母さんは、「この瓶を好きな人に贈ると、恋が実る神様が宿ってるんだよ」と嘘を吹き込まれていた。



その嘘がこうやって、実を結ぶとは思っていなかったけれど。



「俺は、お前の気持ちを1ミリも考えて、サポートできなかった」



「修先生………」



「でもな、俺はお前と出会って沢山、目には見えないものを知ることが出来た。それはこの、心の痛みだってーーー考えることが出来なかったから、零との関係も壊れたんだと思う。俺が上手くお前の気持ちを汲み取っていたらってな。だからーーー今度こそは償いたいんだ。付き合ってさ」



本当の所、ネックレスの件で全員と海の真ん中で揉めたあの日の翌朝に零から連絡があった部分もあり、目が覚めたのもある。



零とも連絡先を交換していた故に、電話が鳴り俺はそれを受け取っのだ。



零からの報告はやはり「純奈は絶対に、俺じゃなければ心を開かない」事と、「純奈が俺に対しての思いをちゃんと理解してあげて、俺自身が純奈に対してどう思っているかを考えて!!」とのことだった。



半分冗談で聞き流していたのだが、花子さんの話を聞く時に、それが今の俺に足りなかった部分だったのだろうと感じることが出来た。


悩みに悩んだ上に、俺は決断し零からのエールを受け取って今、純奈は俺の「最愛の人」と思ってる。




それは、不器用ながらも純奈は俺の事をやはりいつも思ってくれていた、優しい面があったから。



それだけは譲れない、彼女の優しさに俺は触れたから惚れたんだ。



「受け取ってくれ。これは、俺の気持ち」




この瞬間に俺は全てを掛けた。



振られてしまってもいい。



それだけ、純奈は俺にとって価値のある存在になっているのだから。



「………私のそばに、ずっと一生いてくれる……?」



俺は手を包む。



「ずっと一生。約束だ」


純奈は口を結ぶ。



そしてほんの数秒後。



「………友達として、初めさせて」



そうして、俺と純奈の運命がこの時正式に回り始めたんだ。