電話を切ろうとした。


「もしもし?」


1秒の間。



友香の声が。



「友香か?修だ」


「友香くん、僕のフィアンセは!?」



「我だよ!!友くん無事かい!?」


「友香何処行ってたんだ!!俺死ぬほどホテル内探しまくったんだぞ!!俺だったら、出てくれなかったくせに!!」



「………み、皆待って!!色々言わないでよ………」



俺は気持ち高まる皆を抑えて、静かにするよう黙らせた。



「お前、今何処にいる?」


「話が早いな………実は、純奈先輩見つけたんだよね………」


「「「「え?!!?」」」」」



驚きのあまり、声が出た皆。


「なんだよ………教師人生追い込まれるかと心配したのに……笑わせるな!!」



「ごめんなさい………」



「でも、良かった。友くんが無事で、純くんも。一体全体今何処にいるんだい?」




「それが………学校の桜の木の下に今いるの」



「純奈と一緒なんだよな?友香?………俺が、初めて純奈と離した場所だから………だろうな」


皆は何も言わない。



悟ってしまったというのもあるのかもしれない。


「ねぇ、修っち………一人だけ出来てくれない?修っちだけ」



「いきなり何を言い出すんだ」



「純奈先輩………修先生の事でーーーちょっと思い違いをしてるみたいだし………2人で1回ちゃんとぶつかったほうがいいよ………」


四人は答えないだが、もう……答えは出ていて。



「俺……行ってくる」


皆には、花子さんの話を聞いてくれと指示をして。



リビングに出向いて、靴を履き母さんに事情を話して出向いてゆく俺。



車を飛ばしている最中に、俺は思った。



ーーーどうして、純奈は出ていったのだろうーーーと。




普段の彼女なら、案外タフなところがあるからちょっとやそっとのぶつかり合いなのなら、情緒的にならないはず。



それなのに………初めてこうして行動に顕にして抵抗したのだ。




俺は片手にスマホを運転しながら立てかけて、友香に繋げる。



スピーカーモードにしているから、心配はご無用だ。



「修っち?今来てる?」




「おかげさまで………なぁ、友香まず先に聞こう。何でお前が部屋から飛び出したんだ?敵対者じゃなかったのか?」




サラサラとしてじめったい時間が流れた。



なんだかこの時間が居心地が悪い気もして、歯痒いのが難点。



「私ね………変わりたかったの」



それは返答にならない答えで。




「修っちと仲直り?的なのをした時から、ずっと頭から離れない事があって……それはね、「私は私って自立する」って事が悶々と頭を駆け巡ってた」




「答えになってないぞ?」



「ちょっと、最後まで聞いてよー!!もう!!ーーーんでね、私が自立する為に必要な事ってなんなのかなーって思った時に気付いたの。それは「本当の意味で修っちと、純奈先輩の幸せを願うこと」なんじゃないかって」




「………どうして、そう思う?」




「だって、2人はいつもなんだかんだ言って「父親に犯された汚い私」を見捨てたりしなかった、大切な唯一の「友達」だからだよ」




さっと曇り空から光が差してきた。




「それに……2人は気づいてないかもしれないけどーーー実は最初から嫉妬してたんだ。2人が世界で一番楽しそうに話してるの………私知ってたんだよ………。羨ましかったし、余計に私純奈先輩に意地悪をしてしまった。そのことが頭から離れなくてーーー純奈先輩を探しに出向いたの」



「どうして、お前は純奈があの桜の木の下にいるって分かったんだ?」




「純奈先輩とはなんだかんだ話してるからね。修っちとの馴れ初めを覚えてたから、たぶんここなんじゃないかなって思っただけで」


「そうか………すまない。迷惑をかけて」




「ねぇ、修っち。純奈先輩を責めないであげて」




「なんでお前がそんなことを、気にするんだ?」




「純奈先輩って、タフな所あるでしょ?花子さんと口喧嘩しただけでーーーあんなふうに取り乱すことって、そうそうないと思うの」



「お前も、そう思ってたか………」




「だからさ、理由があるんだよ。もっとこう……深い所を抉るような、震えるような理由が」



走行しているうちに、高校に着いた。




友香が手を降っている向こう側に、桜の木の下に佇む純奈が。



「お願い。2人だけで、話をして?ね?」




友香は駆け寄ると、俺から離れて一人で帰るとのこと。



俺は交通費のお金をとにかく友香に渡す。



靡く風に揺られる純奈。



青々しい葉桜が、日光を反射してキラキラ光る。



「純奈?」




「……修先生………やっぱり、来たんだ」




どことなく不安そうな彼女。



怯えたような、声を震わせて揺れる肩。



何をそんなに怖がっているのか。



後ろ姿だけでは、分からなかった。