「今後………もうこんな隠し事をして、我々三人はギクシャクしないようにしてほしいと約束してくれ………友くんとも今後、そうしてくれ………我は………悲惨な結末になるのは、勘弁なのだよ……」
「百合ちゃん……」
全くの正論だった。
私はやっぱり、弱い自分にかまけて甘えていたんだな………。
こんな駄目だ私を、ぶっ叩かない健気な対応を見て、気づいたんだ。
「私………逃げないよ。もう」
「そうか、それなら我も、嬉しい」
「友香ちゃんは………どこにいるの?」
「純君のおばあちゃんに用があると、言っていたぞ?」
「………え?何で?」
あまりの予想外の展開に、頭が追いつかない。
どうして、友香ちゃんが私のおばあちゃんの存在を?
「まさか……知らないかい?友くんとおばあちゃんの関係を?」
「関係……って?ていうか、どうして百合ちゃんがその事を知ってるの?」
「切羽詰まった様子で……、隼斗くんが教えてくれたのだよ……「純君のおばあちゃんが、友くんをお金で買ってーーー修先生と純君を引き離してほしい。彼女のためだから」と言うことを話してたとな………やはり、純君………おばあちゃんは、過去の事を君と同じ様子で引きずっていたんじゃないのかい?」
「そんな………そんな酷いこと………!!」
あまりの衝撃に、私は居てもいられなくなって、走った。
今から、友香ちゃんを助けなければならないのもある。
だが、その前に倒さなければならないであろう宿敵もいるわけで。
「お………おばあちゃん!!」
扉を開いて、真っ先に叫ぶ。
「あらあら、どうしたの?純奈?」
さっきまでの喧嘩など、どこ吹く風の様子で優雅に紅茶をのんでいた。
「どうして………友香ちゃんにーーー吹きかけるようなことをしたの?」
自分でもありえないくらいに、冴え冴えとした凛とした空気が、身体を纏う。
「………漏れたのね。もう少し、楽しんで平和を手に入れたかったのに」
「平和とか………私の為とか……おばあちゃんは一体何がしたいの?私………何かしたの?」
おばあちゃんは答えない。
その代わりに、私の全てを覗き込むかのような真っ黒なブラックダイアモンドみたいな瞳を向けて向き直る。
「純奈………愛ってなんだか分かる?」
「へ………?」
「愛ってなんだか………貴方考えたことある?」
その質問がどんな意図をもってして、発せられているのかは存じない。
でも………答えなきゃ行けない雰囲気があったからーーー。
「愛する人の為に、直ぐ側にいてーーー守ってくれる事なんじゃないの?」
おばあちゃんは、瞬きを一つ。
そして、鼻で笑った。
その美しい容貌から、白雪姫に出てくる美しいお后の若い頃のようで、身震いした。
だって、この後すぐに毒リンゴを使って私を殺し自分が一番美しいと酔っていると言わんばかりの、恍惚とした顔が悍ましい。
「残念、不正解。正解はね、「愛する人から、相手を思って離れる事」が本当の愛なのよ?」
「………それが、もし本当だったとして………どうして友香ちゃんを操ることと関係してるの?」
私は負けたくないって、この時思ったんだ。
ここで言い返さずに、おばあちゃんの言いなりになったらまた………誰が私のせいで傷突くのかもしれないってふと、考えて。
その理由はどこからやって来たのかは、分かんないけど確信が持てて。
「まぁ、貴方は随分と修先生と触れ合ったことでーーー私に言い返せるぐらいに成長をしたことは褒めてあげる。だけど………これは、どうかしら?」
嫌味のような顔をして、ポッケから取り出したのは修先生から貰ったネックレス。
「また、それ………か、返して!!」
「まぁ、まぁ、さっきの余裕は何だったの?純奈?私の言いたいことが、分かってるってことなのかしら?」
嫌な汗が、体中から噴き出てきた。
「と、友香ちゃんを操ろうとしてる………し、真実を言わないおばあちゃんに、い、言われたくない!!」
必死に、震える手で掴みかかろうとした、けど束の間だった。
左頬に鋭い尖った痛みが走る。
初めてだった。


