その記憶は私を蝕んで、結局は他者を避け、傷つける刃物になってしまっていて………自分でもどうしたらいいのかーーー。
「もう………いっそ………鳥になりたい」
そうポツリと呟いていた。
「我もそう思う時はあるぞ?安心したまえ」
笑顔で迎え入れてくれた百合ちゃん。
でもそんな彼女に、私は意地悪をしたんだ。
「……ねぇ、百合ちゃん。零くんの事………好きだったりしてた?」
百合ちゃんの顔が、瞳が、みひらく。
「………知っていたのか?」
タイミングが悪く、私が悪女に見えるかもしれない。
でも、もう零くん別れてしまった以上、ここは先輩として区切りをつけておきたい。
実は百合ちゃんが、零くんの事を好きだった事を知ったのはごく最近。
零くんと付き合って3年目に差し掛かろうとしていたあの正月の日。
ロンドンから帰ってきて、久々に一人暮らしをしている私の家にやって来て、鍋パーティーを開催している時だった。
「実はね………百合が在学中に、僕の事が好きだったらしいんだ。純奈真実を知らないかい?」
レモン鍋という爽やかな酸味纏う春雨を、思わずむせそうになった。
「だ………大丈夫かい!?」
「えっと……ごめんね。取り乱しちゃった………本当なの!?その噂!?」
「それが………結構本当みたいなんだ」
百合ちゃんが、学校中で零くんが好きだという噂が絶えないらしいと今も存続してるファンクラブ経由から情報を得たとのこと。
「……零くん………いいの?」
「何を言ってるんだよ?一番は純奈だよ?」
「……そっか。ううん………なんでもない」
本当は、何でもないわけ無かった。
それは……友香ちゃんと修先生の関係を壊しかねない行為をしている事への罪悪感に押しつぶされそうになってるのもある。
だけど、今度は百合ちゃんとの関係も壊そうとしている自分が………何だか恐ろしく思えるーーーそう口にしたかったのだ。
でも………だからといってこのネックレスを外せばーーー私は誰かの物になってしまって………不幸が訪れるんじゃないかと思うとーーー。
春雨が溢れた。


