「友くんと………和解はしないのかい?」
少し引き締まった表情の百合ちゃん。
それもそのはずだ。
友香ちゃんと百合ちゃんは親友でもあり、クラスメイトなんだから気にかけてるのだ。
先輩と後輩の喧嘩に巻き込んでしまって、本当に申し訳ない限りだ。
「えっと……和解はしたいよ………でも、自分から言えない事情ってのがあるの………」
悪いとは分かっているのだが、自分からあの事件のことを話すのは、とてもじゃないけど不可能だった。
自分の弱みを見せたら、攻撃されるんじゃないかって怖さもある。
だけど、重要なのはそこじゃない。
「どうして、その事情を……言えないのかい?」
「心のどこかで………その事を話したらーー皆不幸になっちゃうんじゃないかって、怖いの。………馬鹿みたいだよね、それで友香ちゃんや、零さんを傷つけたのに………。でも、怖いの………どうしたらいいのか分からないくらい………口が裂けても、あの事は忌々しい記憶なの」
そう、私の本心はそれであったのだ。
だからこそ、黙らなければならないという呪縛に私は囚われたまま。
鳥かごから出ることを渋る、瀕死の鳥。
「そうか………誰にだって、そうゆうくらい一面を持って入るのだが………純くんの闇はどことなく底が深いのだな」
その言葉を掛けられた瞬間、涙が溢れてきた。
それは……何も追求しない優しさが身に染みるからだろう。
そして、こんな最低な先輩をお世辞でも、構ってくれている面倒見の良さがなんだか自分何してんだろうって考えさせられるのもあって。
百合ちゃんは、責めることもなく丸めていた背中を優しくさすってくれた。
後輩なのに………私ってば、どうしてこう慰められることでしか動けないんだろう………。
でも……もう、私はどうしたってあの事件のことは1秒でも忘れたい故に、人に相談しようなんてこと出来ないのだ。


