Summer Love



目を開ける。



真っ赤な夕日が差す午後。


ホテルのスイートルームに案内されたお姫様じゃないかと修先生に豪語されたのにもかかわらず私は泣いていた。



おばあちゃんがーーーまたあのぬいぐるみを持ち出してきたから。



昨日浴びるように喧嘩して、おばあちゃんと別居中。




きっとおばあちゃんは、風にあたって気分転換をしているのだろう。




「また………どうして!!もう、……つらい思いでしかないのに、勘弁してよ!!嫌がらせなの?!」



両親の死から手放したこのぬいぐるみ。



毎回捨てては、おばあちゃんに拾われての繰り返しで10回くらいリフレインしたぬいぐるみ「ルル」


毎回おばあちゃんが、肌身離さず持っていた白いうさぎのぬいぐるみはビー玉の目をしていて、全てを見透かしているようで気持ちが悪い。




幼い頃、小さな裏庭の近くにあったこじんまりとした雑貨屋さんにぬいぐるみ「ルル」がいた。



通学路を通る時に、「ルル」と名付けたのをおばあちゃんに話していたから、その事は知っている訳で。



「いいでしょ!!娘が初めてーーー貴方に素直になった記念の品なの!!そんな大切なものを、捨ててたまるものですか!!理解してちょうだいよ!!いいかげん!!」


ーーじゃあ、私のことはどうでもいいってことなのね?


実に腹から生まれた娘の子供など、どうだっていいと言われてしまった気がして、私はついに耐えられなくなってしまってーーーこうしてベッドに突っ伏している。



気弱な性格ゆえ、言い返す事で体力を消耗してしまったのだ。



おばあちゃんに暴力を振るうわけでもなく、罵詈雑言をぶつける事も出来ない自分の弱さを呪った。



悔しくなって、閉じこもって20回くらいノックがあったが、聞かないふりをしたら、ピタリと止んだ。



今までずっと、捨てては戻ってきての繰り返しで、溜まっていたものが全て吐き出された結果なのかもしれない。



ノックの去り際に。



「じゃあ……分かったわ。今度こそ、捨てるからーーーでもね、一つだけ約束して………それはね。もう修先生と会わないでほしいの」



文脈が繋がっていなかったせいだろう。



「え?どうゆうこと?」という興味本位で耳を傾けてしまった。




別にもうこちらから会うことはない。


零さんとの喧嘩を巻き込んでしまったのは、私の原因でもあるし、修先生はそもそも私みたいな陰キャラに興味を示す趣味なんて微塵もないだろうから。



でも、おばあちゃんは言った。



「あなたの為なの……じゃあね」



ーーー「あなたのため?」



ベッドに突っ伏したまま、寝転んでおばあちゃん不在の1時間過ぎた頃。



「あなたの為って………それならどうしてぬいぐるみなんか…」



ふてくされた気持ちが煮えきったのか、私は起き上がった。



この場所にいると、おばあちゃんとの攻防戦を思い出して気分が悪い故に、逃げ出したのが正解。



私は、友達の百合ちゃんに甘えたのだ。


自分の弱さから逃げる為に、友達を利用してしまったのは………とってもズルいって反省したけれど………やめられなかった。


「おお!!純くん!!我に何のようかね?」



何事もなかったかのように、笑顔で迎え入れてくれた百合ちゃん。



ーーーごめんなさい………私の我がままに付き合わせちゃって………。



夕日が差す、バルコニーから溢れる光に照らされた彼女の白い顔を見るたびに、罪悪感が浮かぶ。



ーーーでもね……私は弱い。こうしてしか、生きてゆけないぐらいに………弱いの。



「ちょっと………話したいなーって思って」



「………そうか」



百合ちゃんは、後輩だけあって余計な詮索をしてこないタイプだからとっても私にとっては居心地が良かった。



その図々しいところが、友香ちゃんに拒絶されてしまうのだがーーーどうしても克服できない私の欠点でもある。