「待ってくれ!!純奈!!」



呼び止めようにも、止まってくれなかった。


純奈はやはり、傷ついたのかもしれない。


俺が避けていたことで、ストレスを与えていたのもあるだろう。



明らかに涙を浮かべて、走り去っていったのだから。



「お前……いいかげんにしろよ!!」




これまで感じたことのないほどの、体温の高さに自分でも驚いてる。



「いい加減にしてほしいのは、修っちの方だよ!!」



「何でだ……理由は?」



「どうして振り向いてくれないわけ?あんな、思わせぶりでーーー消極的で、なんにも努力してない純奈先輩をどうして庇うの!!」


「努力してないって………お前!!」



「だって、事実じゃない!!」



息を切らしながら、睨む友香。



その様子から、相当力んでいるようで。



「あんなハイスペックな零先輩にアタックされたのも、よくよく調べれば顔が良くて、八方美人だったからって私知ってるし!!それに、修っちは美形な女の子に良く話しかけてる癖があるの、私知ってるんだから!!」



「それは……お前の主観だろ!!」



「なら、純奈先輩から離れてよ!!それができない理由は、なんなの!!やっぱり、私より美人だから……?顔?教師として、依怙贔屓なんて、失格だよ!!修っちのバカッ!!」



ふとした瞬間に、泣き崩れた友香。



俺は返す言葉も無かった。



純奈をなぜ心に留めている理由を、友香に話すわけにもいかない。



そして、依怙贔屓なんて言われても、生徒の事を気にかけるのが俺ら教師の仕事だと説得しても、理解してくれないだろう。



八方塞がりとはこの事だ。



「私……初めてだったんだよ?お父さんが逮捕された数日立った頃、初めて私を直接見てくれた異性は修っちだったのに……」




「また………その話か」



「修っちは、学校で腫れ物扱いされて、男子から「ヤリ………」とか何とか言われている私に割って入って助けてくれたの覚えてるんだからね?」




俺は真っ直ぐ友香を見ることが出来なかった。



それは……半分呆れた気持ちもあったから。



それと、もう友達である純奈を無意識のうちに傷つけていることに気がついてないからだ。



俺はもうこうなってしまえば、話が通じないって感じたから。




「もう……お前とは、話したくない。純奈のことお前は、表面だけしか知らないお前なんかに、俺を落とせると思うなよ?見限るな」



それは、友香にとっては残酷な言葉なのかもしれない。



だけど、これくらいの仕打ちはしてもいいとは俺は思った。



だって、人の事情も知らずに割り込んでくる図々しい人間など、社会に出れば抹殺案件だからだ。



ここは、先生として厳しく切り離すべき。



「もう、二度と俺の目の前に現れるな」




ありったけの瞳を開いて、涙を一粒落とした友香。




「酷い……っ!!酷いよっ!!!私だって、努力してるのにっ!!」




反対方向へ走り去る友香。




その向こう側にいたのは、隼斗だった。




肩がぶつかるが、睨まれたのにひるんで追いかけなかった。



「……何があった!?おい!!待てよ!!友香!!」



呆気にとられていた隼斗に俺は駆け寄った。


「俺が突き放したんだ。強めにな」



「どうして?」



俺は事の経緯を隼斗に話す。



「……そうか………」



何か深刻そうな顔をして、そう一言。



「別に、お前が思い悩む事はない。俺の力不足でもあり、アイツの未熟さが原因でもあるからな」



俺も上手いように言い包められたら、こんな面倒な事にならずに済んだのだろうが……どうも俺には、性に合わない。



この状況なれというのは、なかなか想定しづらいものだからゆえに、俺もどう対応していいのか分からないのだ。



「でも……友香と俺………本当にここに来た理由………実は俺達ちゃんと真実を話してない」



「え?」



あまりの突然のカミングアウト。


「どうゆう事だ?」


「確かに、監督に休みを貰ってここに来たのもあってる。でも、それだけじゃない」



「他に……何があるって事だ?」



「友香の父親から………逃げる為でもあるんだ………これが……」