「犯されたってーーー人に向かってっ!!」
「だって、事実でしょ?当日高校1年生になった時に、母親がずっと貴方に手を出していたことに気がついて、警察に突き出した。そこで証拠もばら撒かれて、お父さんは逮捕ーーー転落したんでしょ?普通だったカーストは、底辺まで」
「あなた………なんなんですか?どうゆうつもりで、私にその事を突きつけてるんです?」
また、紅茶をカタリと鳴らして優雅に向き合った。
まるで、私のこの発言をした事を前々から知っているかのようなムカつく態度。
「あなたは苦しんだようね、クラスメイトからは腫れ物を扱うような対応をされーーーそして、幼馴染は助けてくれなかったーーそんな時間を半年間も続けた辛い時期。そこに、修先生が現れたのよね?」
花子さんは耳元で囁く。
ーー辛いことがあれば、俺を頼れ。
あの時の記憶が蘇る。
覚えてる。
初めて購買のパンを、異性から貰った記憶が修っちだった。
そのパンは塩っぱくて、ボソボソで涙が出るほどまずい焼きそばパンだった。
構内1人気の無い、パン。
それでも、私はあの優しい修っちから貰ったパンが、食堂の中で一番好き。
あり得ないくらい。
胸が避けるような思いをするまで。
「あなたは、助けてくれた修先生の言葉で、立ち直り懸命に努力して、悲惨な過去を笑いに昇華してまで、今の地位を手に入れた。幼馴染をも差し置いて。修先生の事が好きだった気持ちが膨らんでいく矢先、邪魔者が現れたのよね?」
「純奈……先輩ですか?」
「分かってるじゃない」
花子さんはハート型のチョコレートを真ん中でパキリと割る。
真っ赤な苺のソースが優雅なお皿の上に落ち、血を思わせる。
「私はね、純奈が修先生の事を好きなのは反対派なの」
「自分の孫なのに……ですか?」
「あの人は、私にとって疫病神的な存在なの」
ハートのチョコの片割れを一口で食べる。
優雅な魔女のような、美しさに見惚れてしまう。
「あなただって、せっかく苦労してきた過去があるのに、純奈みたいな純粋無垢の少女から好きな人をいとも簡単に奪われるのは、良くないって思ってるんでしょ?本心は」
全くもって、私の心を見透かしているようだ。
「なら……私とあなたの目的と思っている事は同類。奪って。修先生を」
「でも……どうやるかは……」
「もー、鈍臭いわね。あなたみたいな美貌の持ち主なら話は早いわ。キスをすれば?」
半分に取り残されたチョコレートを見る。
雷鳴。
血溜まり。
いちごソース。
「まぁ、貴方がもし修先生を奪う事が出来たらご褒美をあげてやってもいいわ」
「……ご褒美……」
呆気にとられていた矢先、意外な言葉が出てきたもので。
「大学に行かせられるような、支援金を払ってやってもいいってことよ」
「そんな……私、そこまで………」
「本当は、大学に進学したいけどできないんでしょ?お母さんだけが働いている、仕事だけじゃ」
私の今の家系は、シングルマザー一択で大学を出たいがために部活に入り推薦を入れてもらえるように努力してきた。
だけど、その努力も水の泡となった今。
このチャンスは目まぐるしいほどの、宝石のように光り輝いていたわけで。
「本当なんですね?」
「私は、嘘をつかないタイプだから、いたって本当よ」
チョコレートを頬張った。
この初恋の味を本物にしたい。
そして、大学への切符を手に入れたいその一心で私は手を差し出した。
「なら、お願いします。協力します!!」
自分でも、容易いとは想う。
こんな軽い女だったなんて、自分でも白々しい。
でも、それくらい私は修っちの全てが大好きだった。
たとえこの命がついても、修っちのそばにいたい。
それは罪深いのかもしれない。
「こちらこそ。よろしく」
でも、後戻りはしたくない。
純奈先輩に、負けたくなかったから。
「でもね花子さん……私、それだけが理由でここにいるわけじゃないから」
ドアに出る瞬間、私はボソリと呟いたのを花子は知らない。
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