俺は扉の前に辿り着く。
色々と仕事をテキパキとこなして、午後1頃。
エレベーターの中、どんな身なりだったら相手に身構えられないだろうと頭を張り巡らせた。
結局は答えは出なかったから、やるだけやってみる論を自分に唱え、チャイムを慣らす。
「はーい。来てくれたのね。上がってちょうだい」
「失礼します」と上がるのだが、元々このホテル俺の実家なんだけど……とも言及できないのはどうしたものか。
「ごめんなさいね。アールグレイしかないの」
「あぁ……それで構いませんよ」
聞いたこともない茶葉を注がれて、ソファーに腰掛けた俺は大層居心地が悪い。
その理由は、純奈がこの部屋にいるのではないかと言うのもあるがーーー。
「凄い………。スイートルームを予約する人は珍しいですね……」
「そう?」
優雅に紅茶を嗜み、これまた絶句するような茶菓子をやすやすとつまむ姿を見たら、これ以上ない敗北を見せつけられたようで、辛い。
「私、事業に成功して化粧品会社の社長になったのよ。人生って何が起きるか分からないわね。純奈の失恋のように」
何か一つ、お茶菓子をつまもうとしたが手が止まる。
この人は、きっと怒ってる。
わざわざ、孫の失恋を持ち込んでくるおばあちゃんは、よほどの事情がない限り口出ししないと思うから。
「あら、自己紹介が遅れたわ。私は薫純奈の母方の祖母。薫花子よ」


