ーーー「先生に、生徒が胸の内を打ち明けられるのは相当勇気がいることだ」と。
そんな話を、聞き流す俺だったが話さなければ人間関係が悪くなるのも嫌だったから「どうしてそう思うんです?」と聞き返した記憶がある。
ーー「子供の頃ってのは、一番の天敵は「大人」だからだよ」
ーー「大人?」
俺は眉間に皺寄せ。
ーー「どうしてですか?大人は子供の事を思っているからこそ、殺さないんでしょ?一緒に生活してあげてるんでしょ?」
物騒な事を言ってしまった記憶もあったが、この時切羽詰まった状況故に、気が回らない状況でもあったのだ。
だから、相手が少しビックリして目を見開いたはずなのだが、記憶は朧気だ。
ーー「確かに「大人」は楽しい思い出を子どもと共有している事もあるとは思う。だけどね、「大人」が思う「子供の世界」と「子ども」の思う「子供の世界」ってのは随分と差がある気がするんだ」
カウンターに座っていた彼は、グラスを傾けウイスキーを鳴らす。
確か……彼は、3歳の男の子を授かっている。
それ故、子供の世界とやらを一番身近に感じるのだろう。
ーーーこれは………遠い昔の記憶か?
思い出に問いかけるように、目をつむり胸に手を当てた。
ーー「「大人」ってのは、「子供の頃の世界」を美化してしまうところがあるからね………。ついつい、それに影響されて綺麗事ばっかり口にしてしまうこともあると思うんだよ。その頻度が多いからこそ、子供は大人を中高生年ぐらいになると、信じられなくなるんじゃないかって思うんだ」
あまりの暴論めいた事に、当時の俺は鼻で笑い「でも、大人のそういう理不尽を小さい頃から慣らすことも鍛錬の一つでは?」とウイスキーを飲みほす。


