あの日から翌日。
夏休み期間というのは、人が溢れかえってしまうカルマを持っているようで。
「このステーキ・ハンバーグ、柚木そうめんセット、そして、クローバーハチミツドリンク、3番テーブルに持っていって」
「分かった、母さん」
「ほらほら、バイトの皆も急いでー!!あたしババアなんだから、忙しすぎる体に毒だから、手を貸して!!」
周りのバイトから、軽く笑われたが、母さんは気遣っているのだろう。
それにしても、目まぐるしいほどの人、人、人。
そして、熱々の料理達に厨房。
ちょっとした紛争地帯になりつつある、海の家クローバーの食堂は、昼下がりの大盛況。
あくる程の忙しさに、猫の手も借りたいなんてほざく苦言も出来ないくらい。
昨日の純奈との件を、俺はまだ確認する勇気がない。
首元に俺が与えた、ネックレスを未だにつけていたこと。
そしてそれは、婚約する約束を交わしているにもかかわらず、高校時代からもずっと。
「俺は………純奈に何かしたのか?」
無事戦争期間は終えた、昼下がり。
休憩とだいして、食堂店を一旦閉めて掃除をさせられた俺。
不服ながらも、客が食べこぼしたドリンクやらを丁寧に拭いて、皿を片付けていた頃だ。
「おやおや。もう閉まってしまったのかい?」
零がやって来た。
相変わらず、パキッとしたYシャツでも様になる美少年だと感嘆する。
「1時間すればまた開くみたいだ。出直せ」
「堅苦しいねぇー。昨日はどうだったんだい?純奈とは?」
氷水のコップに触れた瞬間、澄んだ音を鳴らした。
「……別に何も……」
「そうかい。ならよかった」
ーーー怒ってるのか?
それは、たぶんあのネックレスの件かもしれない。
だが、それが嫌なら本人になぜ零も直接聞かないんだ?
俺がネックレスの存在に気づいているのであれば、零だって認知しているはずだろ?
これは、きっと宣戦布告的な圧力をかけてきてるんだ。
だとしなければ、こうして一人でいるところを狙って、弄りを入れたりすることはないのだろう。
「そんなに、気になるのなら本人に直接聞いてみたらどうだ?」
俺は零に向き合った。


