「まだ粘るのか?」
「もちろん!!」
「もう無理だ」
ピシャリと言い放つ。
「勝ち目はないぞ?
続けて何になるってんだ」
容赦ないことは、理解してる。
だが世の中はっきり断言しなければ、相手のためになるものか。
「いいかげん、諦めてくれよ」
孕んだ風が、足元を掠める。
「もう売り上げ、上がらないんだろ?」
意表を突かれたように、サラサラとした電子音が鳴り響く。
「海辺の近くのお洒落商店街に客を取られてるのを見てるだろ?
立て直せるわけない。
引き揚げよう。
な?」
「でも……まだ、貯金はあるから、夫の為に続けたいの。
時間をちょうだい!!」
ライターをあぶる。
煙をわざと吐き出した事を、綾子は知らないんだろう。
母親である、「柊綾子」は一回決めたことは、絶対に曲げない。
実家である海の家「クローバー」。
お父さんが亡くなった故に、綾子は存続に執着していて。
店を閉めようとしないのだ。
「思い出が詰まった大切な、家」という安易な理由で。
逆に借金までして追い込まれる営業までするか、普通?
「だから、手伝ってほしいって事よ」
「手伝う?」
「ほらほら、人手呼ぶにもお金がかかるのよ。
そこのところお願いよー。
高校教師つっても、有給ぐらい出るでしょ?」
サッカー部の輩が目の前を走ってきた。
裏校舎なのに、集団練習をしてる。
顧問がルートを変えたのだろうか。


