「え?まだ粘るのか?」
沈黙が滞るというのであれば、「粘る」ということ。
「アタシ、まだこの海の家「クローバー」で戦えるって思うの!!応援してよ!!」
「応援って、もう無理だろ。諦めたらどうだ?もう売り上げ上がらないんだろ?海辺の近くのお洒落商店街に客を取られて、立て直せるわけないだろ……」
「まだ、貯金はあるからーーー夫の為に続けたいの!!お願い!!」
ライターをあぶる。
煙草に着火。
青空に登ってく。
俺の母親である、「柊綾子」は一回決めたことは、絶対に曲げない性格ゆえに、とても厄介だ。
去年父親が死んだことによって、俺の実家である海の家「クローバー」存続に執着してやたら店を閉めようとしない。
その理由は、「俺の親父との思い出が詰まった大切な、家だから」という。
馬鹿馬鹿しい………。
そんなことよりも、生きていくことが最優先事項なのに。
逆に借金までして追い込まれる営業までする意味ないはずだ。
「だから、手伝ってほしいって事よ!!人手呼ぶにもお金がかかるからさぁー。ほら、高校教師つっても、有給ぐらい出るでしょ?」
サッカー部の輩が目の前を走ってきた。
裏校舎なのに、集団練習をしてる。
顧問がルートを変えたのだろうか。
夕日が差している夏場近いときは、グラウンドで走るのなんて苦痛でしかないからな。
「夏休み期間中に、店を手伝ってほしいってことか?」
「お願い!!親の一生の頼みだよ!!お給料はなくても、いい飯食わせて寝床もいいとこ泊まらせるからさ!!」
ため息。
煙は相変わらず、煙突なしでも雲を作る製造機波に逃げてゆく。
だが、俺は言えなかった。
「もう辞めろ」とは。
父親のことも好きだったこともある。
けれど、必死にすがっている母さんを見るとーーーなんというか、あまり言及できない。
人の死っていうのは、とてもデリケートな問題である。
拗らせれば、今よりもずっと変な行動に出やすいし、精神を壊されてもぶっちゃけ困る。
特に母さんは今、50歳近いし………。
だから、それによって傷ついたな人間の心を荒らすのは身が引けるからこそ、「辞めろ」とは発言できないわけで。
「夏休み期間中は、研修があるんだよ。それをどうやって埋め合わせすればいいか、俺は知らないし無理」
「そこを何とか頼むよ……!!あたしの恩ってのをあんた知らないの?柊修っていう立派な男性教師になるために、お金を出したのはあたし達夫婦なのよ?!」
そんな事言いだすなんて………卑怯だ!!
ーーーなーんてことも言えず。
「はぁ……仕方ねぇーな……。分かったよ……なんとか、校長に頼んでみるけど、期待するなよ?」
母さんは電話越しで、喜んでいるのだろう。
「さっすが!!アタシの子供ー!!よくできた子だよ!!」
その声を聞き終えた時、通話を切る。
さっきはああ言ったのは、いいものの……どうしたらいいのだろうか。
吸う。
肺に循環した、汚れた空気は二酸化炭素とかし外界に出ていく。
あいつが、やってくるまでは。
「ヤッホー!!美少女がアターック!!」
脇腹に鈍い痛みが走る。
「ケホッ」とむせた代わりに、既のところで転ぶのを阻止。
「友香!!辞めろ!!近づくなって何回言えば分かるんだ!!」
「もう!!いいでしょ!!未来に私と先生は結婚する運命なんだから!!スキンシップは大事だよ!!慣れも必要だって!!」
いきなり俺にタックルをかましてきたコイツは、「花見友香」鶴ケ丘高校2年女子生徒。
俺のクラスの生徒ではあるがーーー厄介な野郎だ。
なぜだか知らないけれど、異様に俺に好意を示して隙あらば恋人のように近寄ってくる。
周りの男子生徒は、「可愛い美少女に追いかけ回されて、いいなぁ……」だったり、同僚からは「青春ですね」だなんて言われる始末。
全く興味もない人種に、追いかけ回される俺の身にもなってくれ。
ぶっちゃけ、女子で言うところの「ぶりっ子」っていう感じがして、鼻につくし性格上ngだ。
でも、この友香は「ぶりっ子」と思われている割には同じ世代の子からは、慕われている。
「スポーツマンで、やりたい事がはっきりしてるから憎めない」とのことだ。
今では、野球部のマネージャとして活躍して、仲が良い男友達もいるとは聞くけれどーーー。
「なぁ、どうして俺に構うんだ?若い男を捕まえたらどうだ?」