月と太陽

「…光守、私、」

今の光守に何を言えば心を救えるのか
分からない。

私はそういう知識もないし
確かに同性愛の事は分からないけど…

本当に光守の事を嫌いになる事はない。
気持ち悪いとか思わない。

その思いを言おうとした時、
突然立ち上がった光守は、
そのまま洗面台の蛇口を捻り
先ほどの嘔吐物を排水溝に流すと

「…影守、お父さんとお母さんに連絡して。
私が帰って来たって言って」

そう、抑揚のない声で言った。

「…え、でも、」

「…私は大丈夫。
お父さんとお母さんの前では普通に振る舞うし
今日あった事も、自分の事も話す気はないよ。適当に誤魔化すから」

光守はそのままその場を去ろうとした為
私は無意識に光守の腕を掴んだ。

「…光守、大丈夫じゃないでしょ」

「…大丈夫だよ。
さっき学校でこっそりシャワーも浴びて
触れられた所とか全部擦ってきた。
もう、体調も悪くなんかない…。
ただ家までもう少しって所で
突然思い出して気分が悪くなっただけ。
お父さんもお母さんも家にいなくて良かった」

そう言った光守の腕や首をよく見ると
確かに相当擦ったのか赤くなっていた。

「…そうじゃなくて、体調なんかじゃなくて、
光守の心が…光守の精神が…私心配だよ」

私がそう言えば
光守は少しだけ私の方を振り返り

「…もう、どうにか出来る問題じゃない。
私の心が完全に男だという事も、
今日あった事も全部変えられないんだから。
影守の事も巻き込みたくないしね…」

そう切なそうに微笑むと