朧気な記憶。

男の子が泣いている。

大きなお家の前で、声を殺して泣いている。

手を伸ばすと、上げたその顔は、頬が真っ赤に腫れていた。

「大丈夫。私が治してあげる!」

笑いかけると、泣くのを辞めたその子は、代わりにキョトンと首を傾げた。

「ほんと?」

「うん!任せて!」

私ができたのは、消毒して、ガーゼを貼ってあげるだけ。

それでも、男の子は顔いっぱいに笑みを浮かべて、「ありがとう!」と言ってくれた。

それが嬉しくて、私はこんな笑顔を増やしたいって思ったんだ。

「ねぇ、名前教えて」

「私はね、つばさっていうんだよ!君は?」

「僕は──」

プルルルル……プルルルル

「ん〜〜?」

電話の音で目を覚ます。

夏休み中の1日。

机には参考書が散らかっている。

夢を見ていたみたいだ。

内容は、思い出せないけど。

まだ眠い目を擦りながら、玄関の受話器をとると、緊迫した超えが耳に飛び込んできた。

「こちら救急です!東翼さんですか!」

「そうですが……」

救急というワードに困惑する私にお構い無しで、その言葉は飛び込んできた。

「お母様が、交通事故に合われました。
息は、既にひきとられました。」

「……え?」