桜舞う入学式。

校舎の至る所から、楽しそう笑い声がするこの場所は、昔はこうでは無かった。

「あのぅ……」

小さな声に振り返ると、そこには到底高校生には見えない程小柄な女子生徒が立っていた。

綺麗な黒髪に、白い肌。

茶色い瞳は怯えてはいれど、確かな強さを宿している。

高校時代の彼女にそっくりだと思った。

「どうかしましたか?」

私の声に、彼女はびくりと方をふるわす。

極力優しい口調を心がけたつもりだが、笑顔が硬かったのか、余計にビビらしてしまった。

「1Aの教室が分からなくて……」

「新入生ですね。ついてきてください。」

歩き出すと、後ろからトコトコと小動物のような足跡が聞こえ、思わず笑いがこぼれてしまう。

「着きました。どうぞ中へ」

「ありがとうございます。えっと……」

1Aの教室の前、私の名前が分からないからだろう。

困惑する女子生徒に笑みを向けると、私は先に中へ入り、教卓の前に立つ。

先程の生徒が席に着いたのを確認し、手をぱんっと叩くと、途端にざわついていた教室は静かになった。

「皆さん初めして。西虎(せいこ)高校入学おめでとう。
今年1年、皆のクラス担任を受け持つ相模(さがみ)しゅうです。」

よろしくと一礼すると、クラスがざわめきを取り戻す。

イケメン!良さそうな先生。

そんな評価が聞こえてくる中で、真っ直ぐ手を挙げたのは、先程の女子生徒だった。

「質問いいですか!」

先程とは打って変わって明るい声でそういう女の子は、何故かテンションが上がって見えた。

「何かな?」

「ここが昔、ヤンキー高校だったって本当ですか?」

「本当にだよ。昔と言っても、10数年前のことだけどね。僕もここの卒業生だよ。」

その返答に、クラスが先程と比べ物にならないほどのざわめきを見せた。

視界に映る約40人の生徒は、男女半々。

本当に、変わった。

「じゃあ先生は、‪”‬虎王‪”‬を知ってますか!?」

懐かしいその言葉に、自然と笑みをこぼす。

「うん、知ってるよ。」

この高校がヤンキー高校と言われていた時代。
最強と呼ばれた伝説のヤンキーと、
そのヤンキーを変えた、美しい天使のお話を。

僕は誰よりも知っている。