ポタン ポタン
水の音で男は目を覚ました。
地下室なのか?周りを見渡すと目の前で娘が携帯を操作していた。
おいと言おうとすると体に激痛が走った。
両手と両足を縛られ動けなくなっていた。
「さやか」
名前を呼ぶと、娘のさやかは顔を上げニヤリと笑った。
「おはよぉ。」
「これは、どうなってるんだ!」
「あー。煩い!状況みてる?私に大きい声出さないで。」
「すまん。これ、外してくれないか?」
「は?」
さやかは、立ち上がるとナイフを手に持ってきた
「何を!」
「……ププ!刺しゃしないわよ。なんで縛られてるか、考えてご覧よ。正解したら離してあげる」
「ふざけるな!俺はお前の親……」
最後まで言う前に、何かが飛んできて足に激痛が走った。声にならない痛みが走る。見ると氷の矢だった。
「大きい声出すなと言ったよね?耳ある?要らないからはいであげようか?」
「やっやめてくれ」
さやかは、お腹を抱えて笑う。こんな娘だったか?
と言うか、こんなことになった理由は分からない。。
どうしたらいい?
「さやか…ヒントをくれないか?」
「ヒント?そこまで分からないかぁ。ん〜約束かな?」
約束…さやかとの?いや違う。さやかは、約束をした記憶ない。妻か?妻なのか?
「本当に覚えてないんだァ」
さやかは、矢の向きをこちらに向けた。
「まて!まってくれ!何かお母さんと約束したんだよな!約束、結婚記念日?」
「ブー。て、結婚記念日冬だし、今夏だし。」
「誕生日か!」
「本気?終わってるじゃん。先週誕生日だよ」
「じゃあ!じゃあ!」
「これで外れたら当てるよ?」
矢の近くに、さやかは、立った。
妻との約束。妻との…妻との…約束。あっ?
「あぁ…そうか…俺は…お母さんと約束していたな。失業保険が終わる頃、働くと…」
「もうひと月よ?いつまで、お母さんに苦労かけるの?みんなで頑張るんじゃないの?それを、当たり前のように、居座るんじゃないよ!いい加減家のために何かしなよ!」
「すまん…俺長年働いてきたから…休みたかった」
「お母さんに休みはないよ?」
「あぁ」
「でも、お父さんよく働いたよ。頑張ったね」
いつものさやかの顔で笑ってくれた。
2人で笑い合う。良かった。
「おやすみ。お父さん」
その言葉と共に、俺の心臓は止まる。
「役に立たない父親はいらない」
最後に聞こえた言葉は、娘の声だが娘でない気がした。 了
