私たち、幸せに離婚しましょう~クールな脳外科医の激愛は契約妻を逃がさない~

 彼がプライベートな理由で誘ってくるのは初めてだ。

 驚いて一瞬言葉を失ったが、慌ててコクコクとうなずいた。

「はい。行きます。行きたいです」

 主真はにっこりと微笑む。

「じゃあ」

 沙月は満面の笑みで、再び「行ってらっしゃい」と見送った。

(よかった)

 寝室は別、婚姻届だけで繋がった夫婦とはいえ、家族に違いない。

 二年間、彼が負担に思わないよう気をつけながら、沙月は彼を夫として大事に思っていくつもりだ。

 お弁当は踏み込みすぎかと迷ったが、渡してよかった。

(こんなふうに少しずつ、距離が縮まっていくといいな)

 まるで大人のままごとみたいだなと思いつつ、まるで本物の夫婦みたいな気がして胸の奥がほっこりと温かくなる。



 沙月の実家、薄羽家は、その昔小さな診療所だった。

 祖父の代に脳神経外科を中心とした薄羽病院として大きく発展し、沙月の父で三代目という薄羽病院経営者一族である。

 大学卒業後、沙月はそのまま薄羽病院に就職した。