私たち、幸せに離婚しましょう~クールな脳外科医の激愛は契約妻を逃がさない~

 ふたりが住んでいるのは、三階建ての低層レジデンスだ。

 三階には三世帯しかいないので、エレベーターが混む心配はない。いつもの時間通りに彼は出る。

「行ってらっしゃい」

「行ってきます」

 主真と一緒に玄関から出た沙月は、満面の笑みで彼を送り出す。

 結婚当初は見送りは必要ないと言われた。

 けれども『おまじないのようなものですから』と毎日続け、今はすっかり定番になった朝の恒例行事だ。

 沙月の勤務先も主真と同じ薄羽病院だが、一緒に出勤はしない。

 ふたりは訳あって二年という約束で、契約結婚をした仮面夫婦である。

 もちろんこのことは誰も知らないし、いつどんなボロがでるかもしれず、秘密を守ためにも、人前ではなるべく一緒にいないようにしている。

 一八〇を超えるすらりとした彼の後ろ姿が消えるのを見届けて、沙月は玄関の中に戻った。

「さてと」

 出かけるまでまだ少し時間はある。