私たち、幸せに離婚しましょう~クールな脳外科医の激愛は契約妻を逃がさない~

「でも、君の負担じゃないのか?」

「いえいえ、自分のお弁当を作っているから、まったく負担じゃないですよ?」

 彼の口角が、わずかながら上がった。

 いつも無表情に近いが、よくよく見ると変化がある。ほんの数ミリ単位の僅かな違いだけれど、最近ようやく沙月にも判別できるようになってきた。

 彼は今、うれしそうに微笑んでいる。

「じゃあ、お願いしようかな」

「はい。喜んで!」

 しまった! いくらうれしいからって、喜んでは余計だ。

 慌てて口を押さえるが、後の祭りである。

 てっきり苦笑されると思いきや、主真はあははと白い歯を見せて、声を上げて笑った。

「居酒屋の店員か」

 へらりと照れ笑いで誤魔化しながら、沙月はドキドキと心臓を高鳴らせた。

(笑った? あの無表情な主真さんが。――主真さんも、こんなふうに笑うんだ)

 彼は目を細めて楽しそうに笑っている。

 結婚十カ月目にして初めて見た彼の笑顔に感動しつつ、首まで赤くした沙月は、うつむいてキュッと唇を結んだ。