私たち、幸せに離婚しましょう~クールな脳外科医の激愛は契約妻を逃がさない~

 沙月とそんな話をした覚えはない。違和感を覚えつつ『友人の会社です』と嘘をついた。
 仁はいくつかの会社の役員をしているが、ハウスキーパーの派遣事業もあったのを思い出したのだ。

 後日、沙月にそう答えた話をすると、彼女は深々と頭を下げて謝ってきた。

『話を合わせてくださって、ありがとうございます。主真さんに紹介してもらうからと、勧められた家政婦を断ったんです』

 詳しくは聞かなかったが、主真がついた嘘は彼女を助けたらしい。

 そんな話を仁に聞かせたことがある。

『なんか変だろ?』

『普通に考えれば継母とうまくいっていないってことなんだろうが、そんな様子はあるのか?』

『よくわからないんだ』

 沙月の父が入院中という以外、主真は薄羽家の事情について知らなかった。

 脳神経外科医として薄羽病院を助けるつもりでいたが、二年後には他人になるので、薄羽家については、さほど関心もなかったのだ。

 仁がふと『薄羽夫人の実家、確か医療系商社のアツ・ヘルスだったよな』と言った。

『そう聞いてる』

『あそこ代替わりしてから、あんまりいい評判聞かないぞ』

『え? そうなのか?』