私たち、幸せに離婚しましょう~クールな脳外科医の激愛は契約妻を逃がさない~

 彼に気づいた彼女は、にやりと沙月に生ぬるい笑みを向け「じゃあ、失礼しまーす」と離れていく。

 まっすぐ歩いてきた彼に「沙月」と声をかけられ、心臓がトクンと跳ねる。

 家でならまだしも、こんなふうに話し掛けられるのも慣れない。

「はい?」

「ちょうどよかった。もしかすると、今夜はやっぱり無理かもしれないんだ。心配な患者がいて」

(あっ……)

 一瞬、心が沈んだが、努めて笑顔をつくる。

「はい。わかりました」

「すまない」

「大丈夫ですよ。患者さん優先ですから」

 申し訳なさそうな彼に、却って申し訳なくなる。

「私はいつでもいいですから。レストランは逃げないでしょう?」

 おどけてみせると、主真はハハッと笑った。

「そうだな」

 今朝見た大笑いほどてはないが、楽しそうに笑う彼に、沙月はホッとする。

 主真は、ふと窓際のふたりを見た。

「あの患者さん。とても難しいオペだったそうですね」

 口数の少ない主真は「ああ」答える。