一時間後、主真は氷の月にいた。
「どうした? 今日は一段と暗いな」
呆れたように仁が溜め息をつく。
「うまくいかないもんだな……」
主語を言わずに呟いた。
頬杖をつき、グラスを揺らすとカラカラと氷が尖った音をたてる。
沙月の居場所はわからないが、沙月の父は知っているようだった。
『すまないな主真くん。沙月は今ここにもいないんだ。あの子の動揺が落ち着くまで、少しそっとしておいてあげてくれるかい?』
妊娠の事実を含め、すべて待ってほしいと。
そう言われれば『わかりました』と言うしかなかった。
『お姉さんにはもともと恋人がいるのよ。主真さんとは薄羽のために仕方なく結婚したの。子どもができたから慌てて離婚を言い出したのよ?』
美華の話を信じる気はないというのに、頭から離れない。
重い溜め息と共に、この前仁に言われた言葉を思い出す。
『恋って辛いだろ?』
仁は笑って『俺たちには、なおさらな』と言った。
〝俺たち〟すなわち御曹司だの後継者だのと言われる主真や仁は、すべてに負けるわけにはいかなかった。
人一倍努力をしたという自負はある。
だが結果を見れば、順調に人生を歩んできているといえるだろう。
だが、心はそうはいかない。
恋に悩むなど、人生の予定になかったのだ。
なぜこの想いが届かないのか。
いや、届いてはいても受け取ってもらえないだけなのか。



