私たち、幸せに離婚しましょう~クールな脳外科医の激愛は契約妻を逃がさない~

 雪が降ったといえばベッドに潜り込んできて、ある夜は一緒にワインを飲んでなし崩し的に。

 かたときも二年の約束を忘れていない。

 想い出が増えれば増えるほど別れが辛くなるとわかっている。

 ダメだと言えばいいのだ。

 自分たちに未来はないのだから、距離をおきましょうと冷静に言えばいい。

 なのに、言えなかった……。

 口づけを交わすたびに。主真の胸の中に顔を埋めるたびに。
 好きだという想いが心に満ちる。

 目を覚ますと彼の寝顔がある朝が、幸せで。

 彼の汗の匂い、逞しい胸の温もり。頬を撫でる長い指の感触。低く響く、甘い声。

 五感のすべてが彼を覚えてしまう。だめなのに。ひとつになった状態で『好きだよ、沙月』なんて囁かれてキスをされたらもう……。

(だめだな、私)

 ふるふると頭を振り立ち止まる。

 少し頭を冷やそうと、二階北側のバルコニーに立ち寄った。

 幸いバルコニーには誰もいない。

 手すりを掴むと、氷のように冷たかった。

「はぁ……」