私たち、幸せに離婚しましょう~クールな脳外科医の激愛は契約妻を逃がさない~

 拳を握り。負けないぞと気持ちを整えてノックをすると、返事の代わりに扉が開いて秘書が顔を出した。

 秘書は振り返って「沙月さんです」と伝えた後、不愛想な彼女には珍しくにっこりと意味深長な笑みを浮かべる。

「どうぞ」

「失礼します」

 一歩踏み入れた沙月は、ハッとして足を止めた。応接ソファーに客がいる。

「あ、すみません、出直します」
 沙月は慌てて足を止めた。

「いいのよ。沙月さん、さあ座って」

 華子は弾む声で沙月に断る隙を与えず、秘書に沙月の分の紅茶を入れるように頼む。
 できれば関わり合いたくない客だったが、仕方なく沙月は中に入った。

「こんにちは」

「こんにちは沙月さん。お久しぶりですね。お元気でしたか?」

 微笑む彼は布施道夫。年齢は三十代なかば。北海道にある総合病院に勤務する外科医だ。

「ええ、おかげさまで……」

 沙月は硬い表情のまま答え、瞼を伏せる。

「ねえ沙月、布施さんは都内の病院に勤務が決まったんですって。今日は報告に来てくださったのよ」

「そうですか」