仄かに香るメロウ


それから、わたしたちは同じ場所に帰宅した。

10階建てのマンションの7階でわたしたちは同棲しているのだ。

別に付き合っているわけではない。

2年前にわたしが全身性エリテマトーデスを発症したと分かってから、藍の方から「一緒に住まないか?」と言ってくれたのだ。

正直、藍と同棲を始めてとても助かっている。

病気のせいで身体が思うように動かない日もあれば、関節痛に悩まされる日もある為、日常生活に支障が出るのだ。

藍は、それを理解した上で「一緒に住まないか?」と言ってくれ、仕事をしながら家事はもちろん、わたしに負担のかかるような事は全てやってくれ、わたしは藍に支えられながら生活出来ているのだ。

帰宅すると、早速「薬飲めよー。」と言ってくる藍。

「分かってるよ。」
「水で飲めよ?お茶もダメだぞ?」
「分かってますー。」

そんなことを言いながら、わたしが冷蔵庫を開け、2リットルペットボトルのミネラルウォーターを出すと、ササッと藍がやって来て、ミネラルウォーターの蓋を開け、グラスに注いでくれた。

ペットボトルの蓋を開ける、ただそれさえもわたしには難しい事なのを藍は分かってくれているのだ。

「ありがとう。」

そう言い、わたしは今日処方された薬を飲む。

「ほら、疲れただろ?部屋で休んで来い。」
「はーい。」

そう返事したわたしは、自分の部屋ではなく、藍の部屋へと向かう。

すると、後ろから「そこ俺の部屋。」と言う藍の声が聞こえてくる。

「藍のベッドの方が広くてフカフカしてて、寝やすいんだもん。じゃあ、おやすみー。」

わたしはそう言うと、藍の部屋に入り、藍のダブルベッドの布団に潜り込むと、お昼寝をしたのだった。