仄かに香るメロウ


薬局で薬を貰ったわたしは大学病院の裏側にある関係者出入り口の方に向かった。

すると、丁度藍が出てきたところだった。

黒いコートにブルーレンズのサングラス姿の藍にわたしは「うわ、医者から殺し屋になった。」と言って笑った。

「殺し屋とは失礼だな。」
「だって、黒いコートにサングラスといえば殺し屋かスパイじゃない?」
「ドラマとか映画の観すぎじゃないか?」

そんな会話をしながら、藍の車の方へ向かう。

周りには、高級車ばかりが並んでいた。

もちろん、藍も黒い高そうな車に乗っている。

車に興味がないわたしには何という車なのかは分からないが、乗り心地で良い車だというくらいは分かる。

藍は車のロックを解除すると、助手席のドアを開けてくれた。

「ありがとう。」

わたしはそう言うと、助手席に乗り込み、藍は「閉めるぞ。」と声を掛けてからドアを閉める。

藍がこんな紳士的な行動を取るのは、わたしの持病のせいだ。

わたしが罹患している全身性エリテマトーデスは、関節痛や指の変形がある為、ちょっとした動作さえ痛みを伴うことがあるのだ。

それを理解してくれている藍は、わたしの身体に負担がかからるような事は全てやってくれるのだ。

運転席側に回り、運転席に乗り込む藍は「昼、何か食べたか?」と訊く。

「まだ。」
「何か食べに行くか?」
「行く行く!」
「何食べたい?」
「やっぱりラーメンでしょ!」
「瑠衣は本当にラーメン好きだなぁ。」

そう言い、笑いながら藍は車を発進させた。