仄かに香るメロウ


そして、目を覚ました時には、既に藍が迎えに来ていて、わたしが目を覚ますのを待っていてくれた。

外来時間外で正面玄関も閉まっている時間帯だった為、わたしたちは関係者出入り口から外に出て、藍の車で帰宅した。

わたしはソファーで毛布に包まりながら、藍がラタトゥイユを作ってくれるのを待っていて、包帯が巻かれた自分の左手首を見つめていた。

やっぱり、わたしはこの家が好き。

藍がそばに居てくれる、この家が安心できる。

そして、藍が居てくれるからこそ、わたしの生活は成り立っていて、わたしは今生きている。

"あんたなんて居なくなればいいのに"

母から言われた言葉と岡田さんから言われた言葉が重なり、取り乱してあんな恥ずかしい姿を晒してしまったけれど、藍が来てくれた瞬間にわたしは自分を取り戻せた。

わたしは、、、藍のことが好き。

誰のところにも行ってほしくない。

でも、、、藍のことが好きだからこそ、藍の人生の邪魔をしたくない。

わたしは、どうしたらいいんだろう。

そんなことを考えていると、「瑠衣、出来たぞ〜。」とキッチンから藍の声が聞こえた。

藍の優しい声に涙が出てくる。

わたしが毛布で涙を隠していると、藍が近付いてくる足音が聞こえ、「瑠衣?どうした?」と声を掛けてきた。

「何泣いてんだよ。そんなに早くラタトゥイユが食べたかったのか?」

そう言って、わたしの頬を流れる涙を親指で拭いながら藍は笑った。

「ちゃんとセロリ入れたぞ。」
「うん、、、でも、藍はセロリ好きじゃないんでしょ?」
「好きじゃないわけではない。好きって程ではないとは言ったけど、好きになった。セロリは、瑠衣の仲間らしいからな。」

藍はそう言って、わたしの頭を撫でると、「さぁ、食べよ?」とわたしに向けて微笑んで見せた。