「大体の病気は、血液検査やレントゲン、MRIとかの検査で目に見えて発見出来る。でも、心の病は血液検査でも分からなければ、レントゲンやMRIにも写らない。本人が自覚するか、周りの人が"何かおかしい"って初めて気付いて受診して、本人の言葉から病名を診断するしかない。」
藍はそう言うと、ピラフを口に運んだ。
わたしは藍の言葉に、"確かに、心の病は目に見えないよなぁ"と思いながら、烏龍茶を飲んで口の中をリセットした。
「今の心療内科医は、薬を出しておけばいいって考えの医者が多過ぎる。だから、俺は薬で症状を緩和させながら、患者の心に寄り添って、言葉を聞いて、寛解に向かわせていきたいんだ。薬だけじゃ、根本的な治療にはならないからな。」
「藍って、そんなこと考えてたんだね。」
「何にも考えないで心療内科医を選んだと思ってたのか?」
藍はそう言って笑うと、ラタトゥイユを掬い、「俺だってちゃんと考えてるんだぞ。」と言ってから、ラタトゥイユを口へ運んだ。
「何も考えてない、とは思ってなかったけど、そんな風に考えてたんだなぁ〜って。そう思いながら治療してくれる心療内科医って、なかなか居ないよね。」
「居ない。でも、黒木先生は違うぞ?ちゃんと患者の心に寄り添った治療をしてる。」
「うん、それは分かってる。」
「だから、黒木先生に診てもらえてる瑠衣はラッキーなんだぞ?黒木先生の予約なんていっぱいで何ヵ月待ちか分からないくらいだからな。」
そう言いながら、藍はグラスを手に取り、烏龍茶を飲み干した。
「本当、わたしラッキーだよね。担当が黒木先生で良かったと思ってる。でも、そう言う藍のクリニックだって、予約いっぱいじゃない。今、新規の患者さん受け入れてないんでしょ?」
わたしがそう訊くと、藍は難しい表情を浮かべ、「そうなんだよなぁ、、、みんな受け入れてあげたいんだけど、一人一人に向き合ってると、なかなか難しくて、、、俺の身体がもう2つくらいあればなぁ。」と言った。
「藍が3人も居たら怖いよ。でも、救われる人は増えるだろうね。」
わたしがそう言うと、藍は「だといいんだけどなぁ。」と空気中を眺め、何かもどかしそうな表情を浮かべていた。



