私の苦し紛れの社交辞令を聞いた男の子は、小さく声を上げて笑い出した。

「ごめん、初めて見る人だし、引っ越してきたのかなと思ってたんだけど……何か一人で喋ってたから」

「聞かれてたか。こっちこそごめん、驚いたっしょ?」

「まぁ、少しは」

 そう言って、男の子は金色がかった大きな瞳を私に向けた。なかなか愛嬌のある顔立ちをしている。

「君はこの辺の人なの?」

「そうだよ。君は?」

「私は親戚の家に泊まりに来ただけ」

 というか、従姉妹の子守りにかり出されただけなんだけど。

 私は心の中で親戚一同(特に叔母夫婦)に対して毒づいた。


 そんな私の心の内もいざ知らず、男の子は得心したように大きく頷いた。

「ここに来たのは初めて?」

「いや、かなり前に一回来たことあったらしいけど……忘れた。もう何年も前の話だし」

 正直今回も来るつもりなかったし、と言って軽い調子で笑うと、男の子も「まあ、確かに退屈な場所ではあるかもしれないけど……」とつられて笑った。

「それにしても、ここって結構人少ないんだね」

「まあね。学校も分校が一校あるだけなんだ。もう村全体が顔見知りって感じ」

「じゃ松島って人分かる? 私の叔母さんなんだけど」

 男の子は少し顎に指を添えて考える素振りを見せ、すぐに答えた。

「ああ、あの川沿いにある家の。確か今度引っ越すんじゃなかった?」

 すごい、恐るべし田舎。

 この人脈の広さ、絶対ネット上の友達とかいらないだろ。