村に着いたのは昼過ぎだった。

 夏の青空と緑の大地はなかなか画になる風景だったが、車から降りたとたん四方八方から蝉の鳴き声に迎えられて頭が痛くなった。

 叔父は蝉よりも早く死にそうな私を見ると苦笑し、「すぐ慣れるから」と気休めを言った。

 蝉相手に文句を言うわけにもいかず、ある意味都会の騒音よりタチが悪い。


 蝉の猛攻から逃れるように家に入ると、叔母は私を六畳くらいの部屋に案内した。

 「こっちで暮らす間はこの部屋が香織ちゃんの部屋だから。荷物とかはここに運んでくれる?」

 私にあてがわれた部屋は相当広く、自分の家のリビングくらいある。

 前に友達から聞いた、田舎の家は広いという噂は本当らしい。

 不満は山ほどあるが、こんなに広い部屋があるなら十日間の田舎暮らしも悪くないかも。

「割とヤブ蚊とか蝿とか多いけど、寝るときには蚊帳があるから気にしなくていいからね。蜘蛛も出るけど毒もないし、驚かなくて大丈夫だから」

 前言撤回、早く帰りたい。