そもそものきっかけは祖父の死だ。


 この村には祖父と叔母一家が住んでいたが、去年祖父が亡くなったことをきっかけに叔母たちは東京に引っ越すらしい。


 しかしそうなると、一つの問題が持ち上がる。

 引っ越し先の下見だの何だので叔母たちが昼間家を空けている間、今年で七歳になる従姉妹の面倒は誰が見るのか。


 親戚間で緊急電話会議が開かれた。

 私と姉は完璧に傍観者の立ち位置で無関心をきめ込んでいたが、よりによって私たち学生に白羽の矢が立った。

 何でも遊び相手になる年頃の子どもに来てもらいたいらしく、お呼びがかかったのは私と姉、私より一つ年下の従兄弟。


 この時点でもまだ、姉か従兄弟のどちらかが行くだろうとタカをくくっていた。

 しかし姉は教習所の合宿で、従兄弟は高校受験のための夏期講習。そして私は友達と原宿。


 潰される候補に上がったのは私の原宿行きだった。


 叔母から電話がかかってきた時には私の田舎送りはほぼ決定されているようなものだったが、私は必死に抗った。


「ちょっと待ってくださいよ、叔母さん。私の原宿はどうなるんですか」

『まあまあ落ち着いて。十日間、昼間の間だけうちの子の面倒見てくれるだけでいいの。私たちだって夕方には帰れるようにするし。何ならお駄賃あげようか』

「うちの高校、バイト禁止なんで」

『夏祭りにも連れてってあげるから。こっちは確かに田舎だけどね、香織ちゃんもたまには自然でも見て……』

 神も仏もあったもんじゃない、こんなの親戚間のいじめだ、訴えてやる。


 必死の抵抗もむなしく、私の田舎行きは正式に決定した。