帰る時になって、ヤコは私を途中まで送って行くと言い始めた。
「いや、さすがにそれは申し訳ないよ」
「いいの、本当に暇なんだから。それにこの辺、街灯ないから夜は真っ暗だよ。土地勘ない人は危ないかも」
「スマホのライトあるから平気だって」
「でも、本当に危ないよ? 田んぼとかに落ちたらどうするの?」
「田んぼに落ちたくらいで死なないから!」
歩きながらそんなことを話している間に、気が付くと家の近くまで来てしまっていた。
「なんか、結局送ってもらったみたいになっちゃったね。申し訳ないっていうか、本当、ありがとう」
ヤコは「お礼言われるようなことじゃないよ」と苦笑する。
「後は一人で大丈夫?」
「ここまで来ればもう帰れるって。……それじゃあまたね、ヤコ」
「じゃあね。会えればまた明日」
遠ざかっていくヤコの背中を見て、初めてここに来てよかったと思えた気がした。
蝉の鳴き声は、いつの間にか止んでいた。

