嘘も愛して




 二年生の総当たりが終わり、続いて一年生の番が回ってきた。毎年一番の盛り上がりを見せるニューフェイスの殴り合い。


 今年は始まる前からトップスリーが決まっているらしく、熱狂はピークに達していた。



 ベージュ色の髪に際立つ赤いメッシュ。


 王様の登場だ。



 顔立ちから佇まいまで一切の隙を見せない圧倒的存在感で周りを黙らせてしまう。


 固唾を飲んで王様の道を譲る一同。その道にあり一匹近づけさせない忠犬は今日も健在で、睨みを利かせている。



 王様の試合は呆気ないほど一瞬だった。


「雑魚が、消えろ」

「ひぃ」

 人一人殺めることなど容易いほど、殺意に満ちた視線で押し退け、相手の人は舞台から逃げ出してしまう。


「もっと骨のある奴寄越せよな、こんなので満足できるか」


 その場にいた者は歓声を上げることも敗者を罵ることも忘れ、ただ呆然と王様を見上げていた。

 彼は下々を見下し、ふんっと鼻で一蹴し、群生の中に姿を消した。



「やべぇな……」

「さすがルーキー一番手だ……」

 金縛りから解かれたかのように、各々感嘆をこぼす。


「あの人この前の。いいねぇいいねぇ!組むのありじゃない?ねぇねぇ」

 研真もテンションが上がり体を揺らしている。

 そんな少年に申し訳なく私は困り眉をしてしまう。



「え、あー、それがね……」

 かくかくしかじかと、この前の出来事を簡潔に説明した。


「え、もう組んでるのー?」

「組んでるっていうか、んー、まぁ協力関係だから組んでることになるのかな?」


「いいじゃんいいじゃん!わくわくするぅ」

 この子は本当に、怖いもの知らずの無邪気な犬みたい。



「あいつ誰だ?」
「あんな強い奴いたのかよ……」
「ルーキーナンバーツーらしいぜ」
「まじ?」
「御織さんと違って体格もよくないのにすげぇな」



 次の対戦が始まっていたらしく、驚きの声が会場を制していた。