カラン……。
「あっ、いらっしゃ……っっ……げっ」
来客を告げる心地よい音に、無条件に顔を上げ――固まる。
「ええ、いらっしゃいました。お客様に向かって、今何と?」
(……だから、“げっ”って言ったの……!!)
心の中で文句を言ったが、冷や汗が背中をつ……と流れていくのは、子供の頃の記憶が今なお鮮明に残っているからだろうか。
「……ご宿泊ですか?それとも、何かご注文を?」
ぎこちない動きとひきつる頬を小馬鹿にしたように笑い、さも当然というように案内されるまま中へ入ってきた。
「そうですね、お茶をいただけますか?いや、これは何とも可愛らしい店員さんだ。ついうっかり、遠路はるばる通ってしまいたくなる」
足を優雅に組み、彼の瞳から今にも凍らされてしまうのではないかというほどの冷気がオーリーに浴びせられる。
(…………っっっとに、嫌味!!)
何が遠路はるばるだ。
ここは王都からも近い。
だからこそ、オーリーが来ることができたのだ――すっかり忘れていたが、それまで色々あったとして。
だが、まさかこの人に連れ戻される羽目になるとは思わなかった。
オーリーの子供の頃からのお目付け役――キースに。



