虹橋の先へ



「アルフレッドの親馬鹿は置いたとしても、オリヴィア王女は我が国の民を救ってくれたのだ。怪我まで負わせて謝罪するならともかく、王女に問う罪などどこにもない。叔父上殿もそれくらいにしておけ」

「……クルル王と弟君に言われたんじゃ仕方ない。でも、今日のところは連れて帰るよ。皆心配してるしね」



そうだ。
皆を振り切って、宿を飛び出したきりだった。
騒ぎが鎮静したことは伝わっているかもしれないが、きっと皆心配しているだろう。
ライリーはどうしているだろう。
ジェイダだって何も言わずとも、早く夫の顔を見て安心したいに違いない。



「ええ。ですが、少しくらいは僕に時間をいただいても?」

「どうぞ?」


未だからかい口調にやれやれと首を振り、オリヴィアの腰を支えたまま、視線を浴びせてくる。



「え……っと、その、ニール様」



あちこち、視線が痛すぎる。
ニール本人が言ったとおり、他の目は然して気にならないらしい。

昔の記憶を辿りながら描いていたように、それは優しくあたたかい。
けれど、ジリッと焼きつけるような熱さも感じてしまうのは、どこかやましさがあるからだろうか。


「僕は甘く見すぎていた。久しく会っていない婚約者を縛りつけるには、何もかも足りていなかったんだ。こうなりそうなことは、もう何年も前に教えられていたのに……つい、きみの想いに甘えてしまっていた。ごめんね」

「え、いえ、その……」


果たしてその謝罪を受け入れてしまっていいものか。
ちょっとだけ怖くて、返答に困る。


「必ず、お許しをいただくよ。それは本当に絶対、すぐのことだから……どうか、今はこれで僕に縛られていて」


両の頬を手のひらに挟まれ、身動きが取れない。
それは確かに、まだ何も知らないオリヴィアを縛りつけるには十分すぎる。
期待しすぎてすっかり固まったのを弱ったなと笑いーーそっと額に降りてきた口づけだけで。