虹橋の先へ



「兄上。さすがに失礼です」

「お前の婚約者殿としては、確かに。だが、身内だと思えば、多少許されるだろう。なあ、オーリー」



愛称を呼ばれ、緊張で止まっていたかのように浅かった呼吸が、次第に穏やかになる。



「無礼はこちらの方です。気さくにお話ししてくださって嬉しく思います」


その答えにややムッとしたニールにキャシディは意味ありげな視線を送ると、心配そうに頬の傷へと目を戻してきた。



「恐れていたことが起きたか。こうなると、何らかの規制をせねばなるまい。あまり制限すれば、翡翠の森の意味が希薄になると思って控えていたが……なかなか線を引くことが難しいな」

「そうだね。そもそも、僕たちのしたいことが境界線を引くこととは真逆だから、上手くいかないのも無理はない。……でも、言っても理解し合えない輩は存在する」



びっくりして叔父を見ると、恐らくこれまでで初めて、彼が目を逸らした。



「お前らしくない。何だかんだ言っても、可愛い姪御が傷つけられて動揺しているらしいな、アルバート」