「ちゃんと掴まっていないと落ちるよ。……なんて、お姫様に言うには月並みすぎるね」
ニールの馬に乗せてもらい、どこをどう触れてよいやら戸惑っているとクスッと笑われてしまった。
そんなことを言われても、こんなにも広い背中や肩、硬い腕はオリヴィアの知識にはなく。
空想の中で恋うていたものを改めて目の前にして、どうしていいのか分からない。
「ごめん。これが一番早いと思って。とても慌てていたんだ」
「そんな……!大事な時に来てくださって、本当に……」
申し訳ない。
そう思うほど、喜んで彼の背にくっつくことができなかった。
「恋人を守らずに危険に置いたまま、何を祝えると?それとも僕は、きみに保身の為に婚約者を見捨てるような男だと思われているのかな」
「そういうことでは……!!」
顔は見えないけれど、溜め息が混ざったのが聞こえ、思わず彼の袖を握り締める。
「それに、僕はきみの行動力に慣れておく必要がある。きっと、これからもたくさんびっくりさせられるんだろうからね。今回はしてやられたけど、次はこうはいかないよ。私の婚約者殿?」



