「……っ」
頬を裂いた熱に顔を顰める。
歯を食い縛り、思わず俯いた先には胸元に散った一房の金糸。
「オーリー……!!」
ライリーの叫びで空気が震えたように、遅れてそれを縛っていた紐がふわりと舞った。
「やめなさい。これ以上の暴力は、私が絶対に許さない」
王女なのだ。
ここに在るものを、目に留まる人々すら守れなくてどうする。
ひらひらのドレスを着て行う公務なんて、今この現状を見る限り必要ない。
もし他に誰かやりたい人がいるなら、喜んで譲ろう。
「女子供にだって、止められるものがあるわ。それでもそれが必要だというなら、使うことをもう躊躇ったりしない。私は――……」
(……驚かせちゃうな)
暴れるライリーを必死に守ってくれる二人を見ると、まだ少しだけ震えてしまう。
(でも、決めたから)
名残惜しいけれど、宿の看板娘はもうおしまい。
自らの名を口にしようと、すうっと息を吸い込む。
「オ……
「私の婚約者だ。それ以上傷つけてみろ。私はまだ、彼らのような冷静な沙汰を下せるようには出来ていない」



