虹橋の先へ










(つ、疲れたぁ……)



声には出せないけれど、一日の仕事を終えるとくたくただった。
何もかも不馴れすぎたし、上手くできない自分への苛立ちで疲れも倍増だ。



「お疲れさん」



それでも何とか乗り切り、放心していたところにハナがぽんと肩を叩いてきた。



「あ、あのハナさん」



さぞや使えないお手伝いだったと思う。
自分でやれば、もっと楽に早く終える仕事だったのだ。
もう来なくていいと言われても仕方がない。



「今日はゆっくり休みな。疲れを残してたんじゃ、次の仕事に影響が出るからね」

「え……?」



それは、明日も来ていいということだろうか。
まじまじとハナを見つめると、照れたようにそっぽを向いてしまった。



「ほら。余りもので悪いけど、処分するの手伝っとくれ」


差し出されたのは、今日だけでも何度か注文のあったパウンドケーキ。
それは確かに、売れ残ってしまったものだ。

でも。

ポットの中で今舞っている茶葉も、事前に温められたカップも。
テーブルに新しく敷かれた、可愛いチェック柄のランチョンマットも。ケーキに添えられたクリームだって。

全部、自分の為だけにたった今準備されたもの。


「ありがとうございます……!」


胸がじんわりと熱くなってくる。
不器用だけれど、嘘のない優しさや気遣いが嬉しい。
急いで席に就いたとたん、フォークでケーキを突き刺した。


「美味しいー!!」

「それは良かった。でも、城の料理人が聞いたら泣くね」



(もちろん、お城で作ってもらえるものも美味しいけど。でも)



これは格別。
頬張る度に、温かい気持ちが広がっていくのだ。