「ああ、ジェイダ。やっと来た!」
少し古く、小さいけれど、どことなく懐かしい宿屋。
ドアを開けたとたん、活気に目がチカチカした。
「こんにちは、ハナさん。大繁盛ですね」
恐らく無理に増やしたのだろう、テーブルとテーブルの隙間を縫うように、ハナと呼ばれた女性がこちらへやって来た。
「昼時だからね。そりゃあね、閉めたくはないと思っていたけど、老体にこんなに鞭を打つ羽目になるなんて聞いてないよ。坊っちゃんのおかげで、休む暇もないったら。何とか言っといておくれ」
(……坊っちゃん??)
「懐かしい呼び方。何だか、あの頃を思い出しちゃいますね」
「ふん。坊っちゃんはずっと坊っちゃんさ。まぁ、あんたのおかげで、落ち着いたとは思うけどね。憎たらしいとこは変わらないよ」
その呼び名が誰を指すのかに気づき、思わず吹き出してしまう。
二人が出逢った頃をちょっとだけ垣間見たようで、変にくすぐったい気分になる。



