「オーリー」
ここで母の声を聞くのは意外だ。
それでも嬉しいことには変わりなく、パッと振り向いたと同時にくっついた。
「まあ。あちらでは大活躍だったと聞いたのに」
苦笑しながらも、短くなった娘の髪をそっと整えてくれる。
「うっ……それは……ごめんなさい。お母様にもご迷惑をおかけしてしまって」
皮肉だと思ったのに、母は優しく首を振ってくれた。
「私が大変だったことと言えば、お父様を宥めることくらいよ。怒ったり、泣いてしまわれるのではないかと思うくらい心配なさって。貴女が帰ってからは、また別の心配事でお忙しいようね」
(本当に親馬鹿なんだから……でも)
感謝しているし、嬉しい。
いくら望んでも、手に入らない愛情だってある。
両親が愛し合っていて、二人とも元気で一緒にいてくれるおかげだ。
「お一人で外に出られるのは珍しいですね?もっとお出かけになってもいいと思うけど……」
それどころか、母が一人で城内を歩くことすら稀かもしれない。
父が反対を押し切って母・エミリア一人を迎えたから、溺愛するあまり他から隠しているのではとも思ったが。
どうもそれだけではなくて、母自身の意思でこの城から一歩退いたところにいるように見える。
「貴女にお客様がいらしているわ。あれは、貴女にとってつい最近ではないかしら。とても可愛らしい迷子がいたのを覚えている?」
「……っ、あの子が!?」
もちろん、覚えている。
先程フィルと話したばかりだ。
会いたいと願った子が、また訪ねてくれるだなんて。
「ここにお通しするわね」
「はい……!!ありがとう、お母様!!」
ふわりと抱かれて落ち着くなんて、子供すぎるだろうか。
それでも、いくつになっても嬉しいものは嬉しい。母はオリヴィアの憧れの人だ。
いつだったか、その美しさと自分の容姿、またそれ以上に違いすぎる内面を比べ、いじけたこともあった。そう、確かあの時、母エミリアは――。
『貴女はそれでいいの。そのままでいてちょうだい、オーリー』
大好きよ。
そう言って、いつになく強く抱きしめられた。
(お母様……?)
何となく、遠い記憶が気になって呼び止めようとしたが、既に母の姿はなかった。



